Let Us Begin Beguine

 中学の英語教師は面白い人だった。
 ある日の授業に『Time Life』という雑誌とレコードプレイヤーを持って来て、ケネディ暗殺の真相について語りはじめた。
 オズワルドが撃ったと言われる三発の銃弾の一発がケネディ大統領の頭に当たり、もう一発は大統領の首を貫通してコナリー知事に当たった。撮影された映像から銃弾の発射音と入射角度の詳細が検証された内容のスクープだという。英語の授業そっちのけで教師はケネディ暗殺はオズワルド単独犯ではないと熱弁をふるった。
 教師はケネディ信奉者だったのだ。
 ケネディは演説の名手だったという。その一端を教えてくれる歌があるというので聞かせてくれたのが『Let Us Begin Beguine』という曲だった。

Together

Let us explore the stars

Together

Conquer the desert

Eradicate decease

Tap the ocean depths

Together

Let us explore the stars

All this will not be finished

In the first one hundred days

Nor will it be finished

In the first one thousand days

Nor in the life

Of this administration

Nor even perhaps in our lifetime on this planet

But let us begin

 教師の熱意はよくわかったが、この英語が英文としてどれほど素晴らしいものか理解することは当時の中学生には出来なかったし、私は今でも分からない。良い先生だったのに残念なことに私は英語が苦手だった。

・・・・

 山口君と『いそしぎ』という映画を観に行った。あの『クレオパトラ』で共演して結婚したエリザベス・テーラーとリチャード・バートンの映画。

 不倫を題材にした大人の映画だった。それは私も山口君も分かっていたので映画館に入るのが少し恥ずかしかったが好奇心には勝てなかった。

 エリザベス・テーラーは全米女性憧れの女優だというけれど日本の少年には『バタ臭いおばさん』でしかなかった。期待が(何を期待したのかは言わない)大きかった分、消化不良な気分で帰って来た記憶がある。

 NHKで「アンディ・ウィリアムズ ショウ」が放映されるようになり、毎週楽しみにしていた。そこで聞いた「The Shadow Of Your Smile」に魅了されて口ずさむようになっていた。

 私が初めて覚えた英語の歌は、奇しくもあの「いそしぎ」のテーマ曲だった。山口君とこそこそ映画館に入ってもやもやしたまま出て来たことを思い出す。今は枯れ落ち葉になってしまったが、あの「もやもや」は懐かしい。

・・・
 英語の授業は楽しかったが、それは教師が英語以外のことを話してくれたからだった。英語の勉強にはどうしても身が入らなかった。日本人の大半は英語が身に着かないという言訳に私は逃げ込んで来た。随分もったいないことをしたものだと思う。
 もう少し身を入れて勉強していたならば、もっと世界が広がっただろう。だから本当の勉強をした理路庵先生のブログを訪ねて視野を広げてもらっている。
 先生のブログは
『CEBU ものがたり』
 

 


 

コメント

  1. 「体言止め」と「用言止め」

    蛇足になりますが、「体言」とは名詞・代名詞を指し、「用言」は動詞・形容詞のことです。

    たとえば、F1レースの中継。
    ① 「地の底から響く上がってくるような轟音!今か今かと待ちわびた、この瞬間!おっと、各車、いっせいにスタート!」
    ② 「地の底から響き上がってくるよな轟音だ!今か今かと待ちわびた、この瞬間です!おっと、各車、いっせいにスタートしました!」

    ①は体言止め。②は用言止め。体言止めは用言止めに比べて力強く余韻を残すと言われています。
    上にあるケネディさんの演説文で、「Together」と最後の「But let us begin」を除くすべての文末は体言(名詞)です。英語の大きな特徴のひとつです。

    かたや日本語は用言止めが主です。
    演説などでよく耳にする言い回し。「〇〇しようではありませんか!」「〇〇なのであります!」
    ○○のあとの文言がある分だけ、冗長になりがちで、力が削がれてしまうことがあります。
    とはいえ、日本語は日本という国、日本人という民族の成り立ちから生まれた言葉であって、日本語の美しさが損なわれるわけでは決してありません。

    最後に、ケネディさんのあまりにも有名な演説の一文。
    Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country.

    「国が何をしてくれるのかを問うのではなく、自分の国のために何ができるのかを問いたまえ」

    日中の好天が一転、今、外は雨。

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  2.  理路庵先生コメントありがとうございます。
     私にとって英語は高い壁で単語の意味を拾うので精一杯なのですが、理路庵先生の解説は実にわかり易く、頭にすうっと入ってきます。
     こんな風に教えてもらえたら少しは英語ができるようになったのかも知れないと思ったのですが、それはとんでもない心得違いだと思いました。理路庵先生の解説が頭にすうっと入って来てもいつの間にかすうっと出て行くかも知れない。
     「Ask not what your country can do for you. Ask what you can do for your country.」もあの時教えてもらったかも知れない。英語が苦手なのは教師のせいではなくて私の頭の悪さに原因があるのだろうと思いました。

     先生が端から聞いていくと生徒が「わかりません」と答える。何人かそれが続いて先生が「わからない人、手を上げて」と言ったら大勢が手を上げてしまいました。その中に私も入っていました。
     先生は真顔になって『わかりませんではなくて忘れましたが正しい。』と仰って悲しい顔をされました。
     あの時、理路庵先生のコメントのような事を教えてもらったのかも知れないのです。英語教師が大好きだったのに良い生徒になれなかった。
     
     理路庵先生が教師だったら素晴らしい教育者になっていたに違いないと思いますが、それでも私のように噛んで含めるように教えても「わかりません。」と答える駄目学生はいるんですね。その時は流石に理路庵先生も『わかりませんではなくて忘れましたが正しい』と厳しい表情をされるのだろうなと思ったりします。それを想像すると悲しくなります。
     
     天気予報では、梅雨入りが早まるかも知れないといっています。その理由は太平洋高気圧が台湾まで張り出して来て梅雨前線を押し上げているからだそうです。
     太平洋が大きく映し出されて高気圧がこの辺りまで張り出していると図解しているのですが、その高気圧にフィリピンがすっぽりと入っているのを見て、5月は真夏という話を思い出しました。
     どうぞご自愛ください。

     

     

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